2024/03/03

「昭和天皇物語」

「昭和天皇物語」 

「Showa Emperor Tale」

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「昭和天皇物語」を読んだ。既刊の14巻まで。

 

Netflixでヒットになった英国の王室を描いたクラウンのような物は、日本の皇室

においてはあり得ないと思っていた。それが漫画ででも、あそこまで天皇のプラ

イベートを描いたものは初めてではないだろうか。やはりヴィジュアルの力は大き

い。頭では、知っているはずの文字だけの事実、しかし、それが映像化して目に飛

び込んでくるとその文字の事実に色が付く。

 

日本の皇太子として初めて、ヨーロッパを訪問した事。皇太子、東宮として、その

当時の東宮御所(現赤坂迎賓館)に住んでいた事。大正天皇は病に臥せっている時に、

若干20歳で摂政をしていた事。

 

ビジュアル化すると言う事は、その場所やその当時の服装や小物、インテリアを描く

必要があるという事。そういう目で、描き込まれている一コマ一コマを見ていくと、

フーンと思う事が多々ある。特に、日本の明治期の椅子座の黎明期、天皇家がまず

椅子を使い始めた。イギリスの皇太子を迎えるために建てられた延遼館の為に作ら

れたであろう小椅子が初めての物だと思われる。

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明治村に残る椅子が、おそらくこういう形であるのを想像させる。恐らく、清から

来た大陸系の職人が作った物に柴田是真が漆を塗った物。まだ、イギリスの俗に言う

バルーンバックチェアと呼ばれる原形の椅子のまんまコピー。時代が経つにつれて

日本の職人が作りだし、独自の感覚が織り込まれていく。この手の漆塗りの小椅子系

ではいくつかのバリエーションがある、次第にイギリスの椅子のデザインから大きく

離れていくのが良く分かる。

2023/06/25

偽装「ウサギ膠」⁇

Fake " Rabbit Skin Glue" ??

 

 

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2週間前に、読売新聞オンラインで見た記事、文化財の接着剤で原料「偽装」、

「ウサギ膠」なのにウシやブタ検出…業者「信じがたい」。東京の国立西洋美

術館が市販の膠を成分分析したところ、表示と違う動物種が原料に使われてい

るという事が判明したという。

 

さらに、一週間前には同じ読売新聞オンラインで追加の記事、「ウサギ膠」な

のにウシやブタ検出、日本に輸出の欧州業者「純正品はもう流通していない」

 

他のメディア(転載ニュースサイトは除く)では、報じられていないので、読売新

聞のスクープ記事なのかなと思うのだが、修復に関わる者として興味深いなあと

思い一次資料である元の国立西洋美術館の分析結果の類を調べてみたのだが、公

Web上でどこにも見つからなった。

 

日本語で言う「ウサギ膠」、こちらでは「ラビット・スキン・グルー」と呼ぶ。

ウサギの皮から取られた膠の一般総称。西洋では、主にジェッソと呼ばれる下地

を作るのに使われる。木製品の金箔張り前の目止めの為の下地を作ったり、油絵

の素キャンバスへ保護の為に塗布したりする。ウサギ膠はゼラチンのゼリー強度

が高い為、薄いガラスのような塗膜を作るので表面の保護だけでなく、金箔張り

の下地をガラスの様につるつるして金箔を張ると金属の様に仕上げることが出来

る。

 

ラビット・スキン・グルーの成分表を確認すると大概はゼラチンとしか表記され

ていない。だから、個人的には100%とか純正とか言葉がない限りは、混ぜ物が

あっても驚くことはない。家具修復で言えば、ハイド・グルーと呼ばれる普通の

膠はあまりにも不純物が少なくて使いずらいと感じる。昔は、膠は動物の皮や骨

を大きな鍋でぐつぐつ煮込んでゼラチン質を抽出するため、必ず不純物が混入し、

それが、匂いや色、固まるまでの時間に影響を及ぼす。それが、今では多分だが

工場で作るようになり、昔のような不純物はあまり入ってないのではないかと思

う。それ故に、色が特徴的であるウサギ膠に若干混ぜ物をしても、さほど影響が

でないのだろう。西洋では、そもそも油絵の下地材としてはほとんど使われない

と思うので、基本金箔張りの下地としてのみの需要。そう考えると妥当な選択で

はないかと思うのだが。

 

そもそも、ニッチな修復業界。さらにウサギ膠にどれだけ需要があるかと考える

と商業的に採算がとれる物でもない。日本に入ってくる輸入品だって、日本の

販売者は商社的側面もあって、需要とコストを見て買ってきているはず。ネット

上には100%ウサギ皮から取った膠を販売と謳う業者がいくつも見つかる。ただ、

販売者がそこから入れないのは単純に採算が取れないからと考えるべきだろう。

 

スペインなどではいまだウサギは常食で肉屋で売られている物、はたや日本でウ

サギを食べる人がどれだけいるか。さらに、動物の死骸などを扱う人たちは、忌

み嫌われ差別を受けてきた歴史があるので文化庁が本当にこれは由々しき問題だ

と思うのなら相当の予算を突っ込まない限りは、この問題は是正できないと思う

けど。最後の藝大の教授のコメント「ウサギ膠はもう流通していない、、、」と

いうのは、井の中の蛙的な発想で、閉鎖的だなあと感じてしまった。

 

記事にも出て来るニッピさんのコラーゲンからの動物種判定法のレポートは面白

かったのが唯一の救いか。「レポート」

 

 

 

2023/03/25

朱漆地花鳥螺鈿鳥型脚付円卓

朱漆地花鳥螺鈿鳥型足付円卓

Red And Gold Lacquered Table On A Triangular Griffon Stand

 

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昨年ニューヨークで行われたオークションで出品されたテーブル。

 

江戸後期から明治初期にかけての輸出漆器について興味がる人ならば誰でも

知っているであろうテーブルである。黒地に青貝細工が一般的な中で、この

朱色はひときわ目を引く。

 

残念なことに、アメリカで行われたオークションである為、現地まで現物が

見に行けなかった。こうやって、次のオーナーに移りアンティーク市場から

またしばらく姿を消していく。

 

私が初めて、このテーブルの写真を見たのは2001年発行の「日本の美術」シ

リーズの第427号 海を渡った日本漆器II(18世紀・19世紀)の中である。

 

Top

 

1920年代までイギリス、スタフォードシャーの大客間にあったとされる。

中央部の黒塗りは、あとから加飾されたもの。花瓶か何かを中央に置いて

置いたために湿気による損傷でもあったのだろう。

 

さらに興味深いのは、この変わった脚の形状が、安政三年(1856年)に編纂

された「青貝蒔絵雛形控」の中に出て来る雛形にかなり酷似しているという

である。

 

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その中で、このテーブルが持渡木地と呼ばれる、日本産ではない他所から

持って来られたものであると記述されている。輸出漆器用の日本産の木地

はほぼ間違いなくヒノキ材で作られているので、この木地が何材かがわかれば

この木地がどこで作られたかが特定出来そうである。

 

可能性があるのはインド製か、清の広東製だが、テーブルのデザインがフラン

ス源流から来ているのを考えると恐らくは広東製でではないかと思われる。

 

日本製の輸出漆器の名著である「Japanese Export Lacquer」の中にも

このテーブル、勿論掲載されているのだが、そこには一番上のタイトルにある

に三角形のグルフォンの台座のテーブルとされている。

 

もともとのデザインの原型は、19世紀初頭ナポレオン下のアンピール様式

時代のもの。アンピール様式は、フランスの新しい時代の様式故に、金彩など

の派手な感じでナポレオンのエジプト遠征に触発されたスフィンクス像や、グ

リフィン、イルカや白鳥、ライオンの脚などが特徴的な意匠としてよく見られる。

 

Table03

 

ここで、疑問が湧くのがこの台座の鳥??

これは果たしてグリフォンなのだろうかということ。

 

グリフォンは鷲の上半身にライオンの下半身の伝説上の生物。テーブルの

彫刻、上は鷲に見えないこともないが下は人間の様である。

 

Griffon

 

個人的には、これはグリフォンよりは白鳥からインスパイアされた物で

はないかと思う。

 

Centre-table

 

上は、同時期のマホガニー製のテーブル。

 

発注者の頭にあったのは、マホガニーに鍍金された白鳥の彫刻のついた

テーブルだったのではないだろうか。そうすると、このテーブルが朱色

なのもなんとなく納得がいく。他の同時期の輸出漆器と毛色が違いのも

これが特注品であるゆえだろう。

 

 

 

 

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