« デジタル複製の功罪 番外編 | トップページ | Dundas Chair »

2008/05/31

Bramah Lock

ブラマー錠

家具を修復すると一言で言っても、何も木ばかりを始終扱って
いるわけではない。木を主材にした、様々な金属(真鍮、
ピューター、ブロンズ、銀)やオーガニックの素材(鼈甲や象牙)
を使った集合体である工芸品と私は思っているので、鉋や鑿
を全く使わない日もあったりする。

特に錠・鍵は、兆番や取っ手と並んで、家具にずっと使われて
続けてきた金属製のパーツ達である。鉄、銅、真鍮と使われて
きた素材は様々で、イギリスでは17世紀ぐらいまでは主に鉄系の
素材、18世紀に入って、装飾的な意味で見えるところは真鍮が
使用されるようになってきた。

住宅用の物は、物によってかなり違うが、家具に使われるタイプ
の錠は、まずタンブラー・ロック(Tumbler Lock)と呼ばれる、鍵を
回す事によってスプリングの部分を押し上げ、ボルト部を押し出し
施錠をするタイプの物であった。しかし、一度構造がわかって
しまえば、直すのにそれほど手間がかかる訳ではない。その当時
もそうであったのだろうか、それとも人々が高価な物を所持する
ようになったのかタンブラー・ロックから発展型の錠が発明される。

1778年、ローバート・バロン(Robert Barron)が発明したバロン錠。
これは今現在のレバータンブラー錠の原型に当たる物で、従来
のタンブラー式の発展系である。そして1784年にジョセフ・ブラマー
(Joseph Bramah)が発明したブラマー錠である。

そもそも、このブラマー氏、若い頃は木工を習い、家具職人とし
てロンドンに出て行く。1748年生まれの彼が30歳の時、発明家
として一つ目の特許を申請する。トイレの貯水タンクがそれである。
冬の寒い時期になってしまうと凍ってしまうタンクの水の排出口を
兆番付きのフラップに交換した。このデザインは19世紀のまで
使われ続ける事になる。

恐らく好奇心が旺盛であったろう彼は、鍵に関する講義に幾つか
参加し、その後自分の為に、鍵をデザインする。そのデザインが
あまりにも斬新だった為、その特許を取り、さらに自宅のあった
ロンドンのピカデリー通り124番地にブラマー錠前商会(Bramah Lock
Company)を始め、今現在もその場所に、その会社は存在する。

Blog

このブラマー錠、修復士泣かせの一品である。以前一度、鍵を
作るのをトライした事がある。円柱状の先が7つの歯の様に
分かれていて、バラバラの高さのパターンになっている。そこを
ばねが仕込んである錠に押入れ、そのギザギザが合うと、鍵を
回せる所まで押し込めるという構造である。

Blog

さあ、その構造をあまり良く知らず、錠のカバーについている2本
の螺子を抜いた瞬間、押されていたばねが弾け、中のパーツ
が全て弾けとんだ!! とまあ、その後は全てのパーツを見つけて
事なきを得たが、あれは過去の多くの失敗の中でも思い出
深い物。

このブラマー錠、その当時の高価な家具に良く使われている。
特にリージェンシー時代の物。錠自体の値段も高かったに
違いない。その錠がオリジナルで付いていれば、その家具は、
間違いなく1784年以降の物と言う事が出来る。今現在、
ブラマー錠前商会は、錠そのものは作ってはいない。が、商会が
作った錠前には品番が打ってあるので、いまだそのオリジナルの
鍵を作る事が可能である。決して安くはないが、有難いことでは
ないだろうか。

« デジタル複製の功罪 番外編 | トップページ | Dundas Chair »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Bramah Lock:

« デジタル複製の功罪 番外編 | トップページ | Dundas Chair »

フォト

instagram

2024年6月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ