Upholsterer's Trap
椅子張り職人の罠!!
家具の修復と言う仕事上、椅子に張ってある、擦り切れた、
汚れた、または購入後の顧客の趣味により布地、中身をはがす
事がある。8脚組みの椅子なんかを剥がす時には、何百、
何千ものタックス、ステイプルをはずす、もの凄く単純作業の繰り
返しなので、思いっきりのめり込めて、頭が真っ白になれるので、
個人的には意外に好きなのである。
座面の下縁のブレイド(braid 日本語ではなんて呼ぶのだろう)、
もしくは鋲(Stud)をはずし、裏のダストカバー、座面のトップカバー、
下のスッタッフィング(Stuffing)、力布(ウェビング Webbing)の順に、
留めてあるタックス(Tacks)、もしくはステイプル(Staples ホッチキス
のガン)を取り除き、剥がしていく。骨だけになった椅子のフレーム
を見るのは、結構好きである。
上は、椅子張りを剥す時に使う道具。鋲なんかは真ん中の刃を付け
てない鑿とお手製の木槌(Mallet マレット)を使いはずしていく。
一番下はステイプル・リフター。名前の通りホッチキスの弾のような
ステイプルを押し上げる道具である。
そして、椅子のフレームにガタや損傷があれば直し、今度は
椅子張り職人の所へ送られ、新しい布地、使えるスッタッフィングは
使い、足りない所は、新しい馬毛で補充し、お色直しがされる。
詰まる所、椅子の修復・修理と言うのは、修復士(Restorer)、
椅子張り職人(Upholsterer)のコラボレーションにより達成されるもの
なのである。
が、いつもいつもそういうラッキーなケースばかりではない。
大概、修復士と椅子張り職人は独立した物なので、椅子の張替えで
直に椅子張り職人に持ち込まれるケースがある。そして剥してみて、
発見するのである。
椅子をフレーム状態にすると色々な事がわかる。過去に何回
張替えがされただの、以前は鋲で仕上げてあっただの。上は、その
8脚組みの1脚のアームチェアーを右サイドからアーム・サポート部の
すぐ後ろの部分を録った物である。左端にマホガニーの
アーム・サポート。座面枠はブナ材。虫食いと過去の椅子張りの
タックス跡で結構酷い状態。以前鋲を打ってあった下縁は鋲の
連なりに沿って見事に、割れている。すでに、大鋸屑と膠を練って
作ったパテで虫孔、タックス穴等は埋めてあるが、さほどの補強に
なってはいない。
ヘシアン(Hessian 荒い黄麻布)を留めたタックス、馬毛をくるみ、
ステッチを施されたスタッフィング、追加の馬毛、トップ・カバー下
のカリコ(Calico 木綿さらさ、布)。
布地を張ってしまうと、全て隠せてしまう為、時には酷い直しを見る
こともある。剥がして、ガタがあるのを発見し、接合部に螺子を
打ってしまう。ガタのある接合部の境目を跨ぐ様に何十本もの
ステイプルが打ち込んである。挙句の果ては、ステイプルと呼ぶ
には、凄い5cmほどもある奴を接合部に打ち込んでみたり、と
椅子張り職人も凄い事をするのである。
まあ、剥がして、ガタを発見しました、また顧客に伝えて、
修復・修理をどうするかを確認して、なんてやっているよりは、
ちゃっちゃっといんちきでも直して、張って、納品して、お金貰う方
が効率は良い。ただ、そういう扱いを受けた椅子達にダメージが
残る。そうしていい加減に直された椅子達はその歪で違う所が壊れ
ていく。
椅子張り職人だけでなく修復士も似た様な事をしてたりするケース
もあるので、どっちもどっちだが、おくるみの椅子を買うときは、
そういう事もあると言う事を覚えていた方が良いかもしれない、、、。
もしくは、フレームだけの椅子を買って好きな布地を張ってもらう
ほうがよっぽど安心できるかもしれないなあ、なんてことを
思ったりもする。
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