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2008/08/09

Restorer's Dilemma

修復士の憂鬱

私は、家具を修理・修復して、生計を立てている。
基本的に、売買をしないのでうちの会社の工房に入ってくる
家具はプライヴェート、もしくは法人等の所有物である。

家具を修復に出そうと決めるのはどんな時だろうか??

オークションで落としたばかりの物で、使う前にちょっと手直し??
もしくは、長く使っていて、座面がへたったとか、天板に傷が付いた、
脚にガタがある、諸々、、、、。

工房に来るものの中には、修復にその物の価値以上
お金がかかるものも存在する。ただこのとき呼ぶ価値と言うのは
一般の市場で決まる相対的な対価価値であって所有者の主観
である絶対価値ではない。その絶対価値、こちらの言葉で
"Sentimental Value"と呼ぶ。意訳すれば、その物に対する
思い入れの度合いから来る価値。すなわちお金を出して買える
という物ではない。それが故に人はその物を修復に持ってくる。
故人から譲り受けた物だったり、自分が小さい時から使ってきた
物だったり様々であるが、そこで、時に難問にぶち当たったりする
のである。

私達は、修復をするにあたり、家具をひっくり返し、家具自体を
くまなく調べる。家具は必ず、作られてから今までの時間の長さを
示す痕跡をいたるところに持っている。セントラル・ヒーティングに
よる乾燥によるひび割れ。水などによる輪染みや白くなってしまった
木肌。磨り減ったり、凹んだり、それだけならまだしも、取り替え
られてしまった兆番。交換されてしまった脚。サイズダウンされて
しまったキャビネット。ジャパニング(Japanning、日本の漆の西洋
での代用法)されてしまったマルケトリー。見た瞬間に「あっ、これ
ニコイチ。」とわかってしまう事さえあったりする。それが、顧客の
センチメンタル・ヴァリューの深い物の場合どうするか。

正直に伝える事も出来る。この家具は、もともとは恐らくこうこうで、
変更されてしまったのでしょう、と。しかし、そこまで思い入れが強い
のだからわざわざ顧客を失望させる必要は無いとも思ってしまう。

言うべきか、言わざるべきか?

個人的には、やはり伝えないと思う。そこまで思い入れが深い物
であれば、売ってしまうなんてことも無いはずで、顧客が知る必要
も無いという判断だが、さあどうだろう??

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