Ebony and Ivory 続き
黒檀と象牙、続き
この椅子、構造的な所は、しっかりしていて、直す所はなかったの
だが、後ろ脚から背ずりに続く一番上の象牙製のフィニアル
(Finial ベッドポストやランプポストなどの先端部の装飾、英辞郎
より)、背ずりにある12個のもっと小さなフィニアルのうち2つ、そして
黒檀製のねじりん棒(Barley Twist Turning)の一つが無くなっていた。
上は、その小さなフィニアル。最初は象牙の模造の物で引いて
みたのだが、まんまと粉砕。適度な硬さと柔軟さを持つ、自然界
の物には、やはり敵わないらしい。左の二つが新しい物。直径
は10mmきっていて、本当に気を遣う引き物。
長くこの仕事をしているが、象牙を引くなんて機会は滅多に無い。
黒檀でねじりん棒を作るのも然り。せいぜい12cmほどの小さな
もの、これは引くというよりは、削りだすに近い。もともとは
17世紀後半に流行ったこの意匠。この時代にどのようなジグを
使っていたのかは定かではない、が、基本的には罫書き、鋸で
切れ目をいれ、鑿で削り、やすりで仕上げる。
19世紀以降のリヴァイバルの時には、ねじりん棒の機械が出来
ていたので、かなり大量生産で廉価版の椅子が作られた。大概
はオーク製の真っ黒で、籐編み、もしくは板の座面、彫刻で
こてこての椅子。あまりオリジナルの椅子とは似ても似つかない
が(17世紀のオリジナルは多くはウォルナット製のため虫食い
が多く、あまり残っていない)市場でよく見る椅子。
普段、あまり使わない素材を使った修復は、楽しいとともに、緊張
するものである。失敗すると予備の材がない。一発勝負のドキドキ。
しかし、時間は限られている。そんな仕事をした後は、意外に
ぐったり疲れるものであったりする。
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