Ebony and Ivory
黒檀と象牙
確か、80年代に「エボニー・アンド・アイボリー」という曲が
ポール・マッカトニーとスティーヴィー・ワンダーデュエットで
ヒットした記憶がある。歌詞はピアノの鍵盤の白(象牙)と黒
(黒檀)がハーモニーを奏でるように肌の違う人種同士も
仲良くしようという趣旨だったはず。
家具史上で黒檀、象牙が登場するのはかなり昔に遡る。黒檀は
古代エジプトの家具(棺桶)ですでに使用されているし、象牙は
彫刻の素材としては氷河時代から、キリスト教の時代に
なってからもカスケットなどの装飾用に使われている。
17世紀に入ると、海上の航路(特にオランダ東インド会社)を
通じてヨーロッパに黒檀がもたらされるようになる。高価な材の
為であろうか、ほとんどは薄く切ってベニアとしての使用が多い。
また、黒檀の様に目の詰まった材(フルーツ系の樹が多い)を
黒く塗って、黒檀に似せる技法も生まれる。
また象牙は大きな面積が取れない為、ベニヤとして、または
引物の飾りなどで使われるのが主である。
上の写真は、19世紀後半に作られた、無垢の黒檀製の
アームチェアーに象牙の装飾引物が付けられている。
その時期、イギリスの統治下にあったインド、イギリスから
家具のデザインが持ち込まれ、本国への輸出向けの家具が
地元原産の木を使って作られることになる。黒檀と象牙、この
2つの高価な素材の組み合わせはこんな状況で生み出された
のだろう。
ゴシック・リヴァイバルの影響だろうか、足はねじりん棒
(バリーツイスト)。黒檀は水に入れると沈むほど、重い樹だが
それほど硬いという訳ではない。切ったり削ったりする作業効率
もそれほど悪くなく、それでも、この椅子を作り上げるには
多大なる労力がかかったに違いない。
象牙は、ワシントン条約により輸出することが出来ない。今の
樹脂で出来た象牙代換品は良くは出来ているが、小さな引物
などで使うと強度的に持たず割れてしまうことが多い。直すのに
未だ象牙を使わなければいけないというのは、なにか時代に
逆行するような気がしないでもない、と思ったりする。
« 「海外武者修行プログラム」 | トップページ | Ebony and Ivory 続き »
コメント