電気が無い
Can you imagine a life without electricity??
先週、強風の吹き荒れたイギリス。
うちの工房もその一つであった。
晴れれば、室内は明るい。
普通の暖房は使えない。
普段流れるラジオもない。
ない為に、普段のペースでは働くことが出来ない。
響くのは、鋸を挽く音。玄能を叩く音。
伝統的であるといわれる修復工房でさえ、時代の流れには
逆らえない。
18世紀、ジョージアンの時代にはキャビネット・メーカーと呼ばれる
家具職人は朝の6時から、夜の6時まで働いたという。
夏場はいいものの、冬、朝の6時は真っ暗、夜の6時も真っ暗。
大概、作業するベンチは窓際に作られているので、日さえ登れば
光は入る、が、細かいところの光源にするのは弱いのではないか
と思ってしまう。昔の人の方が眼が良かったのか??

リーズ市が管理する、テンプル・ニューサムというカントリーハウス
が発行した一連のカントリーハウス研究シリーズに
「カントリー・ハウス・ライティング」がある。
中世以降のライティングと言えば蝋燭。
今の原油がベースの物と違い、タローと呼ばれる獣脂や、鯨脂、
蜜蝋等から作られる蝋燭。芯を持ち、溶かされた蝋に入れ、外に
出し、乾かす。その繰り返しでだんだん太くしていく。
17世紀のオークの時代のコファーには、蓋を開けると、蝋燭を
しまう箱がある。18世紀の初めに蝋燭に税金が掛け始められる
ようにかなり貴重品であったようだ。
大邸宅にあっても、ダイニングルームに下げられる何十本も蝋燭を
使うシャンデリアに全部火を灯すことなど稀で、室内は絶えず
かなり暗かっと言う事が想像にたやすい。
19世紀になるとガスランプの普及により、安定した光源が室内を
照らす。
どの大邸宅にも、ランプルームと言う部屋があり、鉛張りの
テーブルの上でオイルを入れたり、シェイドの煤取りなどの作業を
する部屋が存在した。
電気が普通に普及するのは20世紀以降だが、その俗に言う
アンティークが産みだされたのは電気普及前の時代。効率を
求めるのは世の常であろうが、今の効率至上主義とは違う
時間が流れていたに違いない。
一つの家具を作るのに一年以上の時間をかけるというと、
とんでもない感じはするが、それが普通だった頃。
良い仕事を追及するには、時間をかけねばならない。しかし、
それでは職業としてはやっていけなくなる。はたして修復は
どこへ向かっていくのか??
ふと停電の暗い工房でそんなことを考えていた。
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