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2014/04/19

作る人 デザインする人

Cabinet-Maker Designer

椅子の修復をしていると、時にこれはいただけないデザインだな
と、思う時が時たまある。

19世紀の物だと、リージェンシーの時代に流行ったサーベル脚。
古代ギリシアの家具からインスピレーションを得てデザインされ
た物だが、そのうちのあるタイプのもの脚の構造。

もしくはヴィクトリアの時代の代名詞的なデザイン。フランスから
入ってきたバルーン・バックの椅子の背ずりの構造。

18世紀はまだ産業革命後の大量生産以前なので、デザインの
構造的欠陥と言う物はほとんどない。が、強いて言えば
18世紀後半に流行ったフレンチ・チェアーと呼ばれるタイプの
椅子の座枠と背ずり(背柱)の接続部であろう。

Frenchelbowxix

1754年にトーマス・チッペンデールによって発行された家具の
デザイン書に3つのスタイルが記されている。

ゴシック、中国風そして、モダンと呼ばれたフレンチ・ロココ。

それ以前のイギリスのデザインと言えば、質実剛健、直線を
基軸とした物。曲線がデザインに入ってきたアン女王の時代
の物でさえ、構造的にはしっかりしたものであった。

Dscf2508_2

座枠の貫に補強の為にカット・ネイルと呼ばれるハンドメイドの
釘が打ち込まれている。本来は3本入っているのだが、貫上部
の濃い色の部分は後から継いだ新材の為釘は無い。

フランスでは釘の代わりに、木のダボが真っ直ぐ3本入ってい
るのをよく見かける。

Dscf2544_3

この椅子、座面は四角と言うよりは丸。

赤の矢印は木目の方向。写真下側の前側の脚に対しては木目は
真っ直ぐ前足へ入る。ところが後ろ足へのほぞは木目に対して
斜め方向。ショート・グレインと呼ばれ、斜めに木目に沿って裂け
やすくなる。

それゆえの釘であり、ダボである。

Dscf2510

実際、修復でばらばらにする時、このほぞ壊れることが多い。

家具史においてある時点までは家具製作士とデザイナーが
同一であった。

つまり木の事を知り尽くしている人間がデザイン
する訳で、あまり無法なデザインは自分の経験上出て来ない。
自分自身の経験値にもよるのだろうが、自分で作れない物は
デザインしないと言う事である。

Dscf2542

かなり曲線を多用したヘップルホワイト時代のこの椅子。

イギリスではフランスの流行を模倣しただけだろうが、本国
フランスでこういうデザインが出てきたのを見ると、実は
デザイナーと言う職業がきちっとこの時代に確立したのでは
ないかと思えてしまう。

釘やダボは製作者側の苦肉の策と言う訳だ。

実際は、ルイ15世下の時代、女性が強かった時代で、彼女
たちからのリクエストに製作者が何とか応えというのが本当
の所の事情だろう。



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