Losing the edge
技術が衰える
副題に"the risk of a decline in practical conservation skills"と続くアッシュリー・スミス氏の論文。
英国の修復団体アイコン(ICON、The Institute of Conservation)の年に二回発行するジャーナルに掲載されたもの。
アッシュリー・スミス氏は長くヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の修復部門のトップを勤めた人。修復における倫理的な問題については多くの著作がある。
学生時代に倫理的な物やリスク・マネジメントに関してのレポートでお世話になった記憶がある。
さて今回彼が書いたトピックスは、、、
1940年に書かれた、元首相であるロイド・ジョージによって書かれた言葉によって始まる。
"Our people have become more sophisticated but less wise;
intellectually more elaborately taught, but practically less competent"
「私達は、さらに洗練されたが、知恵を失い、知的により良く教育を受けるが、実際的には能力は落ちている、、、、」
まさに、現代社会への警鐘ともいえる言葉。
車は進化しているが、人間の運転する能力は、以前より間違いなく落ちている。
進化や発展というキーワードは、時にはその本質を見えなくする。
公共の美術館、博物館や教育機関に従事する修復士、および関連する人々にアンケートを実施し、その後、分析という手法がとられている。
修復業界に長く従事する著者は、最近の業界の変化を感じ始める。
どの業界でもそうだが、どのように人を育てるかというのは大きなテーマで、それ如何によっては国の大切な宝が永遠に失われるということになりかねない。
しかし、ここのところのハンズ・オン・スキルと呼ばれる、実際的な技術が軽視される傾向にある。
その背景には、意識的な軽視というよりは、リスクを避ける傾向、階級(頭脳労働者と肉体労働者)の差別、学術的なスノッブ根性、仕事の見つけ易さ等の複合的な要因だと考えられる。
小さい頃は、子供たちはお絵かきや粘土で手の器用さや感覚を身に付けていく。それが、だんだん大きくなり、道具を使いだす頃に、安全性などを理由に機会を取り上げてしまわれることが少なくない。
学校などにとっては、道具の維持やコスト、場所の確保や維持の費用が削減出来る。
その代わり、子供たちはコンピューターがあてがわれ、疑似的にそれを作ったような、やったような気をさせられ、次に進んでしまう。
学校の既存の枠で収まらない職業をどう教えるか。教育省も、子弟制度の復活やテクニカル・カレッジを増やすことを提案するが、現在の給料形態が変わらない限りは、変化はそう多くは望めない。
その結果に、やはり現場にはシワ寄せがきているようである。
予防保全、必要最低限の介入を必要以上に謳うのは、実際的な技術がないからではないかという疑問。
そして、修復士も認める、実際的な処置を行う機会の少なさからくる自信の揺らぎ。
最後には日本の技術を継承し続ける人としての人間国宝を例に挙げているが、ちょっとレベルが違うのと、それはそれで選考時のお役所仕事による杜撰な一面があるという話も聞いたりする。
この論文に結論はない。
むしろ問題提起をしたまま終わっている気がする。
しかし、何かを変えなくてはいけないというのはわかる。
多くの修復士、それに関わる人、それを目指す人に是非読んで考えて見て欲しい問題である
→原文
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