馬毛の布地
Horsehair Fabric
進化していくという事は、古いものを捨てていく事と同義な感じがする。
初めて買ったレコードは覚えているが、残念ながら初めて買ったCDは覚えていない。それは、あくまで初めて接した音楽メディアがそうだっただけで、もっと若い世代の子たちは、初めて買ったCDを覚えているに違いない。最近、近所のスーパーのCD売り場でレコードが売られているのを見ることがある。中古ではなく、新品。
どんなものも、時間が経てば忘れられていく運命だが、その中でどうしても変わらないものがあったりする。
バイオリンの弓に使われているのは相変わらず馬毛。象牙と同じ特徴を持つ物を、人工的に作るのは不可能に近い。自然から生まれた物を、人工的な物で差し替える。今まで出来た物、事が出来なくなっていく。カーナビによって地図を読めなくなった脳はどうなるのだろう。AIに取って代わられた人間は捨てられるのか。
椅子の張地もそうで、英国では、そもそも羊毛からのウールが使われていた。それが、中国からの絹に代わり、インドからその廉価版の綿、はたまた、動物からの皮か。今では、アクリルやビニールが耐久性やコスト安が故に重宝されている。
どんどん新しいものが、出て来るのに、まだ全ての物が並列に存在している。特に、人間が使うものや接するものには愛着が深いのか、単純に合理的な方へは進まない。これが人間の人間たる所以か。
その中に馬毛と言うチョイスがある。
一般に、馬毛は椅子張りの詰め物として最高の物として使われてきた。他の動物の毛に比べ、太く、弾力に富む。しかし、生地が編めるほど長くもないので、あくまで黒子の役を演じてきた。
事の始まりは18世紀の中頃の、今のドイツの中核となったプロイセン王国ようだ。恐らくは、高価な絹の生地の代替えとして、爪などと同じケラチンから作られている光沢のある馬毛を使って生地にしてやろうと。そこで、王室や新興の裕福層に広まっていったようだ。
馬毛と一般に呼ぶが、ここでは尻尾の毛。それ故に、せいぜい60~70㎝の布地しか織れない。
しかし、染色することにかなり多彩なパターンを作り出すことが出来る。
ちなみに張るとこんな感じになる。↓
耐久性は高く、光沢があり、掃除も簡単。唯一の難点はコストの高さだろうか。
英国ではたった一社が製造しているが、多くの馬毛はモンゴルや中国から輸入しているそうだ。
手触りがいいので、是非一度触ってほしい一品である。
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