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2020/04/14

江戸後期輸出漆器概論その6(仮)

Introduction of Export Lacquer in late Edo Period Part 6 (Draft)

 

そもそも、オランダ商館員が、バタヴィアやヨーロッパに脇荷貿易と

して持ち帰り高値で売れるのは、着物(絹製)、焼き物、漆器の順番

だったという。比較的単価の安い焼き物は、大量の清産が広東から

輸出された為、清製と質的にあまりの違いない日本製は、そんなに

実入りが良かったとは思えない。(量的にもあまり持って来られ

ない)漆器は清製よりはましと言っても、現存するものを見る限り

は、大量注文が絶えずあったとも思えない。

 


19世紀初頭頃までと思われる大型の輸出漆器は、必ず原型が存在し

ている。似てると言えるレベルではなく、飾り金具も含めて完コピに

近い出来である。ただその数多くない原形の形に、今ではあまり

見ないものが含まれるが故に、過去の研究者を惑わせてきたの

ではないだろうか。

 


膝机やアメリカに持ち帰られたカード・テーブル、

トリポッド・テーブルなどは、ある程度長い期間作られていた形な

ので今現在も似たものを確認するのはたやすい。その反面、

ナイフ・アーンやセクレティア、ダービー船長が持ち帰ったとされ

るドレッシング・キャビネットなどのデザインの寿命が短いもは、

作られた数自体が少なく、骨董市場にも多くは残っていない。

それ故に、このデザインはどこから来たのかという疑問に繋がっ

たと考えたほうが自然である。

1_20200414143901

ナイフ・アーン、面白い形である。蓋を上に引っ張ると、ナイフ

が出て来るなんて不思議な構造である。18世紀前半に見つかった

ローマ時代の遺跡、ポンペイ、ヘルクラレウムの発掘を機会に

始まった新古典主義。グランド・ツアーと呼ばれ、イタリアを

最終目的地に、ヨーロッパの貴族の子弟がこぞって出掛けた。

その中の一人が、スコットランドの建築家ロバート・アダム

ある。その彼のデザインに登場するこのナイフ・アーン。

サイドボードの両脇のペデストールの上に乗っている。これは

1788年発行の家具作家のジョージ・ヘップルホワイト

デザイン・ブックから取ったもの。新古典主義派と呼ばれる

アダムのデザインは、古典をベースにした大仰なものが多い。

このデザインも、世紀末に向かって、シンプルな物へと移行し

ていく。

 


10点余り現存する、青貝細工のナイフ・アーン。2種類の形が

確認出来る。丸型と八角形型。飾り金具も、それぞれに同じ

デザインなので、もともと2種類が持ち込まれたのだろう。

その。丸型、八角形型の中から、発見された京都の木地師清友

の墨書き。その漆器が、京都で製作された事と共に、両方とも

同じ工房で作られたのだろうという事が確認出来る。

2_20200414143901

このセクレティアと言う家具の形。優れモノである。多目的家具の

走りである。パッと見ると、独り者にはもってこいの一品。上の

2枚扉の上は鏡張りで、ドレッサー替わり。真ん中のフォールと

言う部分を引き開けると、書き物机に、下に箪笥の引き出し。

これに椅子一脚あれば、あとはベッドしかいらないぐらい。華美

だったフランス・ブルボン王朝が倒れた後の、アンチテーゼ的に

生まれた実用性が高く、シンプルな家具群。一般に

ディレクトワール様式と呼ばれる時代の物。ナポレオンが皇帝に

なった後は、当然ながら家具も華美なものが流行ったので、

本当に短い期間しか作られず、残念ながら現存する輸出漆器と

まるっきりの同型の家具は確認出来ない。一番上左右飾り柱の

意匠違ったりはするが、飾り金具を含め現存する4台は、

まったく同じデザインのようである。

(3台しか確認出来てないが)

3_20200414143901

このドレッシング・キャビネットも癖のある形である。一見すると、

西洋家具を模した出来損ないにしか見えない不格好な家具である。

しかし、この家具を、この当時に多く作られた、船乗りや海外へ

赴く軍人用にデザインされた従軍家具と考えると納得がいく。

膝机と同じように運ばれることを前提としているので、なるべく

四角く、取っ手などは出っ張らないように気が使われている。

 


1788年にイギリスで発行された家具デザイナー、

トーマス・シアラーの家具のプライス・ガイドの図版に似たよう

な、ドレッシング・キャビネットが掲載されている。デザインの

物は、蓋式だが、その隣の両側に開くタイプを組み合わせて注文

したとしたら、まるっきりピーボディ・エセックス博物館の所蔵

しているものと同じになるというのに気付く。

4

数は多くないが、似た物もまだ骨董市場で見ることが出来る。

 

 

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