ハウス・キー
某マナーハウス。
200年程前の事で、さらに今のオーナーはそこに住んでいないこともあって、はっきりした事は明言出来ないのだが、もともとマスター・キーと呼ばれる、名の通り家の主人(もしくはバトラー)が持つ鍵があり、それ一つで全てのあらゆるドアが開けられたのだそうだ。
それプラス、レイディー・キーとよ呼ばれる物、召使などの従者が持つサーバント・キーがあったらしい。
サーバント・キーはもちろんパントリーや台所、裏の通路のドアしか開けられないようになっている。
ドア外側には、取っ手とエスカッチョンと呼ばれる鍵穴。取っ手を回すと、ドア側面の下の小さな出っ張りが引っ込むようになっている。普段は出っ張っていて、ドアが閉まる仕組み。
取っ手は黒檀製。エスカッチョンは真鍮。
真ん中が、鍵穴。右の四角い穴が、取っ手の芯棒が入る。
縦に走るアーム部が、取っ手を左に回すことによって、下の左右に走るボルト部を右へ動かし、普段出ている出っ張りが引っ込む。そして、ドアが開く。
面白いのは鍵穴の周りにあるパーツ。
丁度この頃、蒸気を使った金型で隙間を打ち抜く(?)技法が使われだした。素材はその後も変わっていくが、技法としては今とさほど変わらないことの方が驚く。
上のフロアー、下のフロアーで見ただけでも30余りの錠。当時かなり高価だったに違いない。
昔の技術力に驚くばかり。
今の家の鍵、スペアを作ってもらうとアッというまに出来てしまう。コストも安い。
修復保存の観点から行くと、このような個人のマナー・ハウスで全て錠が残っていること自体稀。そこに住んでいた場合、間違いなく安全上様々なところの鍵は変えられることに違いない。
しかし、この鍵を作るとなると、ワンオフでかなり高くなること請け合い。しかも、信憑性という面では今の錠に比べると格段落ちる。
オリジナリティの面を重視するか、経済的な面を尊重するか、必ず、修復保存の現場で直面する問題である。
さあ、あなたがこのうちのオーナーだったらどうするだろう???