家具修復

2023/06/25

偽装「ウサギ膠」⁇

Fake " Rabbit Skin Glue" ??

 

 

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2週間前に、読売新聞オンラインで見た記事、文化財の接着剤で原料「偽装」、

「ウサギ膠」なのにウシやブタ検出…業者「信じがたい」。東京の国立西洋美

術館が市販の膠を成分分析したところ、表示と違う動物種が原料に使われてい

るという事が判明したという。

 

さらに、一週間前には同じ読売新聞オンラインで追加の記事、「ウサギ膠」な

のにウシやブタ検出、日本に輸出の欧州業者「純正品はもう流通していない」

 

他のメディア(転載ニュースサイトは除く)では、報じられていないので、読売新

聞のスクープ記事なのかなと思うのだが、修復に関わる者として興味深いなあと

思い一次資料である元の国立西洋美術館の分析結果の類を調べてみたのだが、公

Web上でどこにも見つからなった。

 

日本語で言う「ウサギ膠」、こちらでは「ラビット・スキン・グルー」と呼ぶ。

ウサギの皮から取られた膠の一般総称。西洋では、主にジェッソと呼ばれる下地

を作るのに使われる。木製品の金箔張り前の目止めの為の下地を作ったり、油絵

の素キャンバスへ保護の為に塗布したりする。ウサギ膠はゼラチンのゼリー強度

が高い為、薄いガラスのような塗膜を作るので表面の保護だけでなく、金箔張り

の下地をガラスの様につるつるして金箔を張ると金属の様に仕上げることが出来

る。

 

ラビット・スキン・グルーの成分表を確認すると大概はゼラチンとしか表記され

ていない。だから、個人的には100%とか純正とか言葉がない限りは、混ぜ物が

あっても驚くことはない。家具修復で言えば、ハイド・グルーと呼ばれる普通の

膠はあまりにも不純物が少なくて使いずらいと感じる。昔は、膠は動物の皮や骨

を大きな鍋でぐつぐつ煮込んでゼラチン質を抽出するため、必ず不純物が混入し、

それが、匂いや色、固まるまでの時間に影響を及ぼす。それが、今では多分だが

工場で作るようになり、昔のような不純物はあまり入ってないのではないかと思

う。それ故に、色が特徴的であるウサギ膠に若干混ぜ物をしても、さほど影響が

でないのだろう。西洋では、そもそも油絵の下地材としてはほとんど使われない

と思うので、基本金箔張りの下地としてのみの需要。そう考えると妥当な選択で

はないかと思うのだが。

 

そもそも、ニッチな修復業界。さらにウサギ膠にどれだけ需要があるかと考える

と商業的に採算がとれる物でもない。日本に入ってくる輸入品だって、日本の

販売者は商社的側面もあって、需要とコストを見て買ってきているはず。ネット

上には100%ウサギ皮から取った膠を販売と謳う業者がいくつも見つかる。ただ、

販売者がそこから入れないのは単純に採算が取れないからと考えるべきだろう。

 

スペインなどではいまだウサギは常食で肉屋で売られている物、はたや日本でウ

サギを食べる人がどれだけいるか。さらに、動物の死骸などを扱う人たちは、忌

み嫌われ差別を受けてきた歴史があるので文化庁が本当にこれは由々しき問題だ

と思うのなら相当の予算を突っ込まない限りは、この問題は是正できないと思う

けど。最後の藝大の教授のコメント「ウサギ膠はもう流通していない、、、」と

いうのは、井の中の蛙的な発想で、閉鎖的だなあと感じてしまった。

 

記事にも出て来るニッピさんのコラーゲンからの動物種判定法のレポートは面白

かったのが唯一の救いか。「レポート」

 

 

 

2018/10/31

伝統的

Traditional


家具職人見習の丁稚の朝の最初の仕事は、工房の火をおこす事。


そして、接着剤である膠の準備をする。


50~60度で溶ける膠は、70度超えると接着力が落ちる。今の様にIHクッキングヒーターに、温度設定してスイッチ「ポン」と言う訳にはいかない。


膠の管理は、彼らにとっては重大な仕事であったはずだ。



今の、家具修復工房では、パールグルーと呼ばれる粒膠を使っていることが普通である。工業生産で作られた膠である。



それに対し、手工業で作られたものは和膠と呼ばれる。不純物も多く、ゼラチンの純度も低く、固まるまでにやや時間を要する。



和、洋とは分けているが、ついこないだまでは西洋でも和膠と同じ製法で、膠を作っていた。



つまり西洋で伝統的に、家具製作に使われている膠は和膠であって、洋膠ではない。



そう考えると、納得のいく点が多く存在する。


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座枠をバラバラにされた、ウイリアム4世時代の椅子。


彼の在位は1830年代だから、かれこれ200年近く前の椅子になる。


この手のダイニング・チェアと呼ばれるもの、一番最初にがたが来るのは、写真の後ろ足の真ん中に四角いほぞ穴がある、この接合部である。


ちょうど椅子の腰部分。

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硬いローズウッドを、きちっと加工してある。


左側に見える斜めにある穴のようなものは籐張り用の物。輪切りになっている。


幸いなことに、今までずっーと膠で修復されてきていて、ばらばらにするのに何の難もなかった。

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その四角いほぞ穴に入る、ほぞの部分を上から見ると、座枠の構造材はブナ材なのが判る。表面にローズウッドのべニアが化粧べニアとして貼られている。


とはいっても、横から見ると数ミリあるほど厚いもの。


先ほどの斜めの籐用の穴に半割れが見える。

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ほぞはブナ材だが、表面はローズウッド。


これが、純度の高すぎる今の膠の難点だろう作業時間の短さ。


椅子は大概一挙に組み上げる。


新品であれば、部分ごとに組み上げても問題ないのであろうが、使われてきた椅子というものは全体がいいバランスで組みあがっている。直角(90度)であるべきところが、そうでないことも多い。


歪んだなら歪んだなりでバランスが取れているので、一挙に組み上げないと、床に置いたときに3本脚しか床につかずガタガタ揺れたりする。


膠を使った組み上げは一発勝負。


昔の工房であったら、組み上げ専用の部屋があったに違いない。冬でもある程度の温度に保たれた部屋。


それを気にしなくていい、現代の工房。


はた金や締め付ける道具を用意し、仮組をする必要がある場合も多い。


全ての接合部をお湯で濡らし温める。少しでも作業時間を延ばす知恵。

膠を塗布し、組み上げる。


はた金を使って個々の接合部をキンキンに締め上げるとバランスが崩れるので、バンドクランプで座枠を固定してから、確認のためはた金で個々の接合部を締めてあげる。

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洋膠は、和膠に比べると、純度が高い分、保湿性が悪い。さらに、暖房のきいた乾燥した場所ではさらに顕著で膠が乾いてしまうのが早いのではないかと思う。


一回直すと、数10年は使い続けられる椅子も、この洋膠と現代の環境では、その半分ほどしか持たないのかもしれない。




伝統的、トラディショナルという言葉の危うさに、はっとした瞬間であった。









2018/07/08

水銀法の鏡

Tin-Mercury Amalgam Mirror

水銀はあまり馴染みのない物質である。

大概の人が知るのは、古いアナログの体温計の中の物質。あるいは、子供の頃、社会科で習った日本の4大公害病の一つが水銀を含む物質で引き起こされたことぐらいではないだろうか。

EUで水銀の販売、輸出に関して厳しい法律が課されたのはそれほど古い話ではない。(2008年)

元素記号でHgと表わされるこの物質は、金属元素でありながら常温、常圧では固体にならない唯一の金属として知られている。

その昔は、長寿の薬として常用され、また、他の金属と良く混和し合金を作るので、様々な事に使用されてきた。家具では、飾り金具の鍍金として、水銀と金を混ぜ躯体に塗り付け、火に炙り、水銀を蒸発させ、金を躯体に定着させるという方法に使われていた。


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古い鏡を枠から外す。鏡自体が高価だったこともあり、その木枠にも様々な装飾が施されていて、その修復の為に、鏡部分を外す場合が多々ある。

その時、たまに作られてから一度も修理されていない、そのままの物に出会う時がある。

一見、ただの鏡の裏側。今の鏡の裏が銀色の事はほぼ無いが。


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今の、鏡では見ることが出来ない粗い裏側。

14世紀に発明された錫箔と水銀を使った水銀法と呼ばれる鏡。

その、鏡を外した木枠の内側を見てみると、、、、。


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木枠角の部分の内側。

銀色の丸い球がいくつか見える。


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集めてみると、、、、


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液体状の水銀の玉がまだコロコロしている。

鏡の裏に均一に塗った水銀もある程度錫と合金化して固着したものの、鏡のように長い間垂直に置かれていると、上のほうが薄くなり、下の方に水銀合金が下がってくる。

さらに下がってガラスから滴り落ちた水銀(合金)が枠の内側に溜まっている訳である。




ただ、この金属水銀は比較的安全と言われているのでご安心を。



2017/07/16

クリヤラッカー

Clear Lacquer


ラッカーという言葉は、曖昧である。

英語でも、日本語でもそうだが、ラッカー仕上げという表記を見るが、何をもってラッカーと呼んでいるのかはっきりしない。

購入する分には、あまり気にはしないが、修復という観点で見ると、それがいったい何なのかを、きちっと知る必要がある。



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旧東宮御所、現赤坂迎賓館が、一般公開がされている。

とは言っても、以前行っていた年に数日の限定のではなく、迎賓館として使用していない時は、一年中いつでも極力公開という、大判振る舞い。

私が行った時は、丁度朝日の間の天井絵画の修復の為、この部屋だけは入ることが出来なかった。残念。

これが、明治維新後、西洋建築を学び、40~50年余りで建ててしまった事に驚き‼


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こんな、桐の紋の意匠が使われていなければ、ここが日本であることを忘れてしまうぐらい。


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正面の門。ペンキがかなり厚塗りで見えずらいが、
良く見ると制作会社のサインが刻まれている。


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"SCHWARTZ & MEURER PARIS"

「シュワルツ・アンド・ミューラー社 パリ」

明治39年に購入している。なんと111年も前。完全にアンティークと呼べる一品。

所々に錆が浮いてみるのを見ると、大々的な修復が必要ではないかと思われる。



この赤坂迎賓館が、元々の役割から、迎賓館に生まれ変わった大改修が行われたのは1969年。5年の歳月をかけた大改修。

かれこれ、50年ほど前になる。その為か、2009年より館内の天井画の修復が徐々に進められている。

この間、朝日の間が見れなかったのは、こういう理由だった訳だ。



大改修から50年余り、勿論天井画だけでなく、色々なところで補修の必要があるのだろうと思われる。勿論自分の専門の家具も含めて。


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公開されている部屋の一つ、彩鸞の間。

その趣は、東宮御所として建てられた当時とほとんど変わらない。


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特に、奥の壁沿いにあるペアのキャビネットは、この当時のフランスからの輸入品。

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この部屋の家具は帝政様式と呼ばれるマルケトリー等の表面装飾は控えめ、マホガニー材を基調に、金で飾っていく、ぱっと見ゴージャスなスタイル。

このキャビネットも、マホガニー材に鍍金金物で装飾されているはず。


しかし、現実には表面塗装が経年変化で白っぽくなり、下の綺麗なマホガニーの色は一切見えない有様。最初の状態は、フレンチ・ポリッシュで仕上げていたのではと思うのだが。

1977年に編纂された「迎賓館赤坂離宮改修記録」によれば、もともと東宮御所時代に作られた家具のうち597点が補修され迎賓館で使われたようだ。

家具は、表面を剥離されクリヤラッカーを塗布されたとある。

ここで、最初の命題に戻る訳で、

「クリヤラッカーとは何?」


いまでこそ、ラッカーと言えばアクリルラッカーを指すが、その昔はニトロセルロースラッカーのことを言う。

19世紀前半に発見されたニトロセルロースをベースに作られた塗料で、1880年頃からは家具の表面塗装でも見られる。

ただ揮発性の高い溶剤を使う事、可燃性の高さから、1970年代にアクリルラッカーに取って代わられた経緯がある。

が、キャビネットの経年変化を見る限りは、改修当時使われたクリヤラッカーはニトロセルロースラッカーではないかと思うのだが。

ちなみに、手で強く表面を擦ってみれば樟脳の匂いがするのですぐ分かる。しかし、流石に手に届く場所にはなかった、、、、。


天井画に限らず、家具もぜひ平成の大改修で修復して欲しいなあと、個人的には強く望むのである。


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(東宮御所時代の写真は宮内庁公文書館より借用しました。)







2016/11/27

ブラマー錠、再び、、、、

Bramah Lock again、、、


以前にブラマー錠について書いた記事



ブラマー錠、本当に家具修復士泣かせな一品。


オーナーが鍵を無くしてしまったドレッシング・ボックスが、工房に持ち込まれた。

その錠がまさしく、ブラマー錠。ジョセフ・ブラマーが1784年に立ち上げたブラマー錠前商会、ピカデリー124番地。

ロンドンの日本大使館から、ハイドパークへ向かう道の途中。

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ちなみに今は、引っ越してしまってそこにはないブラマー錠前商会



色々試したが、箱を破損させずに開けることを断念し、
ブラマー錠前商会に持ち込み、新しい鍵を切ってもらう事に。

凄いのは、200年以上錠、鍵を作って来たデータをほぼすべて管理しているらしい事。錠に、製造番号が打ってあれば、その番号だけで新しい鍵をカットしてくれる。




無事に、譲渡新しい鍵が返ってきた。

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鍵穴の奥に見える、7枚の歯のようなものがこの状の秘密。

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鍵の先も7つに分かれている。

各部分が、各歯を正しい分、押すことによって鍵が回るようになっている。

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本当は、蓋が閉まっていて鍵がかかっている状態。

錠上部の2つの四角い窓から銀色の爪が出ているのがわかる。


そして、鍵を押しつつ、反時計回りに90度回す。

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爪がスライドして、引っ込んでいるのがわかる。

ちなみにこの状態では鍵は抜けない。


本当に良く出来た錠である。



一度、是非ブラマー錠の昔のデータを管理している、会社の奥を見学したいものである。





2016/11/06

Losing the edge

技術が衰える

副題に"the risk of a decline in practical conservation skills"と続くアッシュリー・スミス氏の論文。

英国の修復団体アイコン(ICON、The Institute of Conservation)の年に二回発行するジャーナルに掲載されたもの。

アッシュリー・スミス氏は長くヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の修復部門のトップを勤めた人。修復における倫理的な問題については多くの著作がある。

学生時代に倫理的な物やリスク・マネジメントに関してのレポートでお世話になった記憶がある。

さて今回彼が書いたトピックスは、、、



1940年に書かれた、元首相であるロイド・ジョージによって書かれた言葉によって始まる。

"Our people have become more sophisticated but less wise;
intellectually more elaborately taught, but practically less competent"


「私達は、さらに洗練されたが、知恵を失い、知的により良く教育を受けるが、実際的には能力は落ちている、、、、」


まさに、現代社会への警鐘ともいえる言葉。

車は進化しているが、人間の運転する能力は、以前より間違いなく落ちている。

進化や発展というキーワードは、時にはその本質を見えなくする。




公共の美術館、博物館や教育機関に従事する修復士、および関連する人々にアンケートを実施し、その後、分析という手法がとられている。

修復業界に長く従事する著者は、最近の業界の変化を感じ始める。

どの業界でもそうだが、どのように人を育てるかというのは大きなテーマで、それ如何によっては国の大切な宝が永遠に失われるということになりかねない。

しかし、ここのところのハンズ・オン・スキルと呼ばれる、実際的な技術が軽視される傾向にある。

その背景には、意識的な軽視というよりは、リスクを避ける傾向、階級(頭脳労働者と肉体労働者)の差別、学術的なスノッブ根性、仕事の見つけ易さ等の複合的な要因だと考えられる。

小さい頃は、子供たちはお絵かきや粘土で手の器用さや感覚を身に付けていく。それが、だんだん大きくなり、道具を使いだす頃に、安全性などを理由に機会を取り上げてしまわれることが少なくない。

学校などにとっては、道具の維持やコスト、場所の確保や維持の費用が削減出来る。

その代わり、子供たちはコンピューターがあてがわれ、疑似的にそれを作ったような、やったような気をさせられ、次に進んでしまう。

学校の既存の枠で収まらない職業をどう教えるか。教育省も、子弟制度の復活やテクニカル・カレッジを増やすことを提案するが、現在の給料形態が変わらない限りは、変化はそう多くは望めない。

その結果に、やはり現場にはシワ寄せがきているようである。

予防保全、必要最低限の介入を必要以上に謳うのは、実際的な技術がないからではないかという疑問。

そして、修復士も認める、実際的な処置を行う機会の少なさからくる自信の揺らぎ。

最後には日本の技術を継承し続ける人としての人間国宝を例に挙げているが、ちょっとレベルが違うのと、それはそれで選考時のお役所仕事による杜撰な一面があるという話も聞いたりする。

この論文に結論はない。


むしろ問題提起をしたまま終わっている気がする。



しかし、何かを変えなくてはいけないというのはわかる。


多くの修復士、それに関わる人、それを目指す人に是非読んで考えて見て欲しい問題である


原文


2015/09/27

Only Moulding, But Moulding

たかがモールディング、されどモールディング

Dsc01450

いたってシンプルなフット・スツール。
お風呂場や、トイレで使う子供用の踏み台ぐらいの小さな一品。

ロココ風のCスクロールの足が特徴的。

一番上のトップカバーと呼ばれる張地を張った時の一番下に半丸縁のモールディングが回っている。ブナの躯体の上に膠であとから糊付けされたもの。

真っすぐな半丸縁のモールディングを作るのは意外に造作ない。基本的には出っ張っているほうがへっこんでいるより加工しやすい。

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横から見ると、波を打つモールディング。

下から見ても同様に曲線を描く。

柔らかいゴムならさておき、この曲線を描くためには曲木でもしない限りは、その曲面に合わせていくしかない。

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材が無駄になっていますが、角材から切り出すしかない。

横からの曲線を切り抜き、下にする面を90度変え、下からの曲線をカットする。下側の基準ラインが出来た後はそのモールディングの厚み分だけ上下をずらし、また切っていく。

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横から見た切り出した材。四角い穴の開いた部分が切り出されたモールディング部分。

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真ん中で開いてみると、モールディングの分だけ溝が開いているのがわかる。ちなみに丸い2つのドットは切る際に、仮止めで使った瞬間接着剤の跡。

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逆の面も同様。

最近廉価になってきた3Dプリンターを使うともっと簡単に出来そうな気がするのだが、木では作れず、大掛かりなNCルーターなんかではコストがかかりすぎてしまう。

やはりこの手のワンオフの物は手でしこしこ作るのが一番なのだろうか。

ちなみにこのスツール、カバの木のような木で作られている。それがウォルナット色仕上げ。

構造を見ると、19世紀前半の英国製ではないかと思われる。

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小さい物に手間をかける。

これが贅沢というものか。







2015/08/15

Thermo Lignum

サーモ・リグナム

有機物で作られた文化財が多い日本では、それに被害を与える害虫との戦いは終わりの無い戦いである。

昔から害虫駆除に使われてきた臭化メチルがオゾン層破壊物質の一つとして指定され世界的に全廃の方向に向かっている今現在、何が文化財における害虫駆除方法として有効なのであろうか。

サーモ・リグナム社を知ったのは、家具修復の勉強をしている時。先生がドイツ人だったせいもあって、ドイツで開発された環境にやさしい文化財における害虫駆除法であるサーモ・リグナム社の高熱温度処理法に関心があったに違いない。イギリス支社は1994年に設立されているから、まだ比較的早い時期である。個人的には、あまりにもシンプルなので本当に大丈夫かなあと訝しんだほどである。

今、働いている工房でもずっと害虫処理に使っているので、そういう意味では」長い付き合いである。



英国で家具に対して害虫と呼ばれるのは大体この3種に帰結する。

-コモン・ファニチャア・ビートル Common Furniture Beetle (Anobium Punctatum)
-デス・ウォッチ・ビートル Death Watch Beetle (Xestobium Ruforillosum)
-ハウス・ロングホーン・ビートル House Longhorn Beetle (Hylotrupes Bajulus)

全て甲虫類。デス・ウオッチ・ビートルはあの日本でも悪名高きシバンムシ(死番虫)。ロングホーン・ビートルはカミキリムシ。どれも成虫が木を食い散らすわけではなく、家具などの隙間や割れに卵を産み、その孵った幼虫が餌として気を食い荒らす。そして表面への穴を堀り、そこから成虫として飛び立つ。

サーモ・リグナム社の方法は単純に高熱処理による駆除。しかし、家具のメインの構造材である木材に熱を充てると材の中の含水率が変化し木が動き出す可能性が高く、それに伴い割れ、反り、歪みが生じる。それを抑えるために相対湿度(Relative Humidity RH)を一定に保つという方法をとる。

過去の実験によると上記の3種の虫(成虫、蛹、幼虫、卵)は50度、47度、55度で死滅するそうで、密閉された部屋に害虫を駆除したい物を入れ、相対湿度を40度前後にキープしたまま、徐々に温度を52度までし、一日ほどそれを保ち、急激な温度変化による結露を防ぐ為にゆっくりと温度を下げていく。

一般に家具に使われる、接合の膠や塗装のシェラック 仕上げのワックスなどが高温により影響があると思うのだが、膠やワックスのビーズワックスの融解点は60度あたり、シェラックは80度なので、基本的には大丈夫とされる。

木造建造物などの大型の物も、アーティストのクリスト&ジャンヌ=クロードの建物を梱包してしまうように特別なフォイルで囲い同じ処理法が出来る。その場合、化学薬品を使ったものと違って、一切その建物の内容物を動かす必要がないという利点がある。

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ロンドンのヴィクトリア・アンドアルバート博物館も1998年のオランダ生まれの彫刻家グリンリング・ギボンズのエキシビションの時に収蔵する全ての彼の作品を駆除処理をするのに使っている。ライムの木の繊細な彫刻、尚且つほぼ無地な仕上げの為、表面仕上げに変色などの損傷を与える可能性がある化学薬品系は使えなかったようだ。

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面白いことに、2012年に発表されたアメリカのペンシルバニア州立大学のヘッジス教授のヨーロッパの木版画にみられる虫穴の論文でイギリスを含む北ヨーロッパではコモン・ファニチャア・ビートル、南ヨーロッパでは地中海・ファニチャア・ビートル(Oligomerus Ptilionoidesに加害に合うことが多いという。もちろん暖かいところに住む地中海・ファニチャア・ビートルのほうが体が大きく開ける穴も大きい。

比較的寒いドイツで開発されたこのサーモ・リグナムの方法だから、イギリスでも通用する訳で、特に、日本も含めて、温帯、亜熱帯に属する地域ではターマイトと呼ばれるシロアリの被害も無視できない。使う国によって個々に調整をする必要がありそうである。

害虫駆除の為の熱処理は比較的昔から使われてきた。いまだに牛乳の殺菌は高熱処理。50,60年代には60度のオーブンに一晩なんて駆除方法も真面目に行われている。

害虫駆除法としては高温、低温の熱処理法は一番エコロジカルで、施工を行う人にも優しい、残留毒物も無く、大型の物にも施工出来る。そういう意味では最良の方法なのだが、日本で実際に有用するにはまだまだ課題が多そうである。








2014/11/09

Back To Basics

基本に返る

"Back to basics!!"

作業をしている僕に向かって、同僚が呟いた言葉である。

世の中が、あまりにも便利になりすぎて、何でもお金で買えてしまうので、ついつい忘れてしまう、こういう基本的な事。家具製作であれば、釘を作る事や、板を製材する事。道具を作る事。日本の職人さん達は、自分たちで使う鉋は自分で作った。

現代の家具でも多く使われるべニア。日本では突板と呼ばれるように、今では鋸で挽かれた物ではなく、ナイフのような刃物でで削がれる物と言う認識が強い。

Roubo_frame_saw02 Roubo_frame_saw02_2

しかし、もともとべニアは上図のように鋸で挽いて作っていた。だから厚みも、全て同じ厚みでなく、挽いた後に調整する必要があったはず。

現代のバンドソーを使っても、カットする目安は1/16インチ厚(1.6㎜程)。

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バンドソーの切った後の歯跡が木目にに沿って対角に見える。

この時の、べニアの目標厚は1㎜だったので、ここから、厚みを削ぎつつ、表面を綺麗にしていく。

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キャビネット・スクレーパーなんかも使えるが、ここではブロック・プレーンを使用。このマホガニー中米産だと思うのだが、導管に白いチョーク分が多く残っているのがわかる。その木が育った土にチョーク分が多く含まれていたに違いない。

Dscf3400

表面を綺麗にした後に、ツーシング・プレーンと呼ばれる鉋で木目に沿って縞々の溝を付けていく。これで躯体に膠で糊づけする準備が終了。

買ってきたべニアを、現代の接着剤で張り付けるのにはこんな手間はいらない。

イギリスでは家具の黄金期と呼ばれる18世紀には、どこの家具工房もこのような下準備をしていたに違いない。恐らくしていたのはまだ、マスターになっていない子弟。かなりの重労働だが、鉋のかけ方や、刃の砥ぎ方、こうやって、少しづつ覚えていったのではないかなあと思うのである。

Fine Woodworking Magazineにこんな記事があった。

記事





2014/07/27

Hobbs & Co.

ホブス・アンド・カンパニー

Dscf3073

19世紀中頃の、デスクについていた鍵。

"HOBBS & CO. LONDON LEVER"の刻印が押してあるのが
見える。

日本では、仏教的な倫理観が一般に浸透している為かそれほど
錠という物があまり発達してこなかった。しかし、ここヨーロッパ
では驚くほどの労力をこの錠の発展に注ぎ込まれてきた。

18世紀の終わりから19世紀の初めまでに、ブラマー(Bramah)錠
やチャブ(Chubb)錠が発明され、錠破りはもう無理かと思われた
当時、1851年の世界博覧会でこの2つの鍵を開けたのが
ホブス・アンド・カンパニーの創業者アルフレッド・ホブスである。

Dscf3074_2

俗に言う、家具用のキャビネット錠で、引き出しの前側の板の
裏側にネジ4本で固定されている。

鍵穴に、カギを入れ反時計周りに鍵を回すと、ボルトが上がる。

2本のカバーを止めてあるネジを外すと中の構造が見える。

Dscf3075    

上に見える銀色の長方形の部分がボルト。一番下の横に走る
物がスプリング。真ん中の部分がリーバーと呼ばれるパーツで
ある。

スプリングは下から上に向かって、リーバーを絶えず押し上げ
ている状態にある。

Dscf3079

ここでは4枚のリーバー。スプリングも4本に分かれ、個々の
リーバーを押し上げているのが解る。

Dscf3077

4枚のリーバー。ローマ字の「Ⅰ」のようなスロット部分の真ん中
の縦棒の場所が少しづつ違うのが見える。

つまり、一番下のボルトの部分を含め5枚の板をその高さに
見合った高さで押し上げないと、カギは回らない仕組みに
なっている。

Dscf3082

鍵の先が5つの凸凹になっているのが解るだろうか??

Dscf3081

鍵を反時計回りに90度動かしたところ。

「Ⅰ」の中心に見える角棒が一番下のボルトのパーツに溶接
してある。この角棒が「Ⅰ」の真ん中を通り抜けないとボルトは
上には上がっていかない。
回すと同時に4つのリーバーの「Ⅰ」の縦棒の部分が一直線に
開かないと鍵が回らない。

日本ではイエール(Yale)のピン・タンブラー方式が主流でだが、
未だにこのリーバー・タンブラー方式がここイギリスでは多く
使われている(家具だけではなく家のドアにまで)。

Dscf3114

Dscf3115_2

無くしてしまった鍵を新しく作る場合、重宝するのがこの錠用の鋸。

鍵の先のギザギザはやすりで上手く直角に削ることが出来ない
ので鋸で切る必要がある。この刃厚が普通の糸鋸より厚いこの
鋸では一回のカットで凸凹を決めることが出来る。重宝する一品
である。(ちなみに刃の厚みは1.0㎜から、1.2,1.5,2.0とある。)




より以前の記事一覧

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