ブック・レヴュー

2009/10/28

「ギャラリーフェイク」

秋の読書週間その3

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漫画である。しかし、たかが漫画と馬鹿に出来ない。小学館の
「ビッグコミックスピリッツ」に1992年から不定期で連載され、
2005年に終了。全32巻。

主人公は、「ギャラリーフェイク」という名の画廊のオーナーで
ある藤田玲司。元ニューヨークはメトロポリタン美術館の
キュレーターという設定。しかも修復の腕も超一流。裏の
美術品のブラックマーケットにもネットワークを持ち、日本の
美術界では鼻つまみ者とされているが、実は密かに一目
置かれている存在。

現実には、これだけの事を、一人の人間がやってのけるのは
到底無理。キュレーターと言えば、狭く、深くの世界。個人の
専門がしっかりしていて、個々の分野にそれぞれの
キュレーターが存在する。本からの知識のみでは限界があり、
いかに本物を見たかという経験の世界。本物を見ずして、
偽物はわからない。美術館といったって、世界中の名品を
全部持っている訳ではない。むしろ名品の半分以上は個人
(もしくは法人)の所有ではないだろうか。

しかし、主人公の存在は自分が一修復家として憧れ的といっても
言い存在でもある。もちろん究極ではあるが。漫画(フィクション)
ゆえにというのはさておき、書かれているエピソードの話題は
多岐にわたる。和洋、古今東西、彼の知らないものはないぐらい。
私の知る限り家具に関してはほんの数エピソードしか絡まないが、
それでも読む価値は十分にあると思う。

本当に作者の細野不二彦氏はどうやって、毎回ネタを探して
きたのかとても興味深い。アート通のブレインに当たる人物が
いたんだろうなと想像するが、実際はどうなんでしょう??

この際、大人買いで全巻揃え、赤ワインちびちびやりながら秋の
夜長に読むというのは結構、粋だと思うのだが。
(しかし、内容の濃さに一夜に全巻読破は難しいと思う。)

2009/10/20

「日本の国宝、最初はこんな色だった」

秋の読書週間その2

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以前書いた、「デジタル複製の功罪 その1」「その2」「番外編」
あくまでテレビの一番組を見たのみの感想だったが、さらに一歩
踏み込んだ、このデジタル復元についての書籍である。

修復したいその物を、デジタル化して、ディスプレイ上に表示する
ことによって、本体その物を傷つけることなく、復元(修復)した後
のイメージを簡単に(作業自体は手間のかかる事だが)
ヴィジュアル化することが出来る。ある意味ではリフォーム前、
リフォーム後のイメージとなんら変わらない。また、そのイメージを
オリジナルのフォーマットで複製することによって、そのもの自体
を楽しむ事が出来るのと同時に、製作者の本来の意図が改めて
見えてくる。

著者の小林氏はこれを「参加する視線」と表現する。国宝であれ、
なんであれ、博物館で、絵巻物の1ページを、本来は対の屏風を
一枚だけであるとかをガラス越しに眺めても、本来の楽しみ方は
見えてこない。いつの頃からか、美術品と呼ばれ、人の目を避け、
本来の制作された目的も失われ、ただの剥製のように博物館に
鎮座する物たちに成り下がってしまった。

確かに、国の宝と認識されるもの、丁寧に扱わないと壊れてしまう、
この先失われてしまう場合、保存することは大事であろうと思う。
そういう手においては、デジタル復元、もしくはデジタル複製と
いうのは有効な手段かもしれない。むしろ国宝だからこそ、沢山
複製を作り、日本中の学校に配り、教育用の資材として活用すれ
ば面白いなあと思うのだが。

ヴァーチャル・リアリティの世界が当たり前のようになってくると、
世界中の名品をすべてあなたの部屋に揃えることが可能になる。
だからといって、オリジナル本来の価値が失われるとも思えない。
まだまだこれからのジャンルだけに面白いことが期待出来そうだ。

「日本の国宝、最初はこんな色だった」
小林泰三著
2008 光文社新書
ISBN 978-4-334-03478-8

2009/10/10

「うるしの話」

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えっ、家具修復と漆と思うかもしれない、が、意外に西洋家具史
に出てくるのである。ポルトガル人が鉄砲を伝えた種子島への
到着から、南蛮貿易が始まり、鎖国になるまでの間、そして
オランダとの出島を通した貿易、開国してからの西洋文化の
流入と日本文化の流失、アール・デコの時代にも漆を使って
装飾されたものが多く存在する。そういう形で、多くの漆芸品が
海外に存在する。

本来漆は私の専門ではないが、今でこそ、ジャパン・マネーが
少し下がり気味なので、アジア美術の中では中国物にトップを
譲った感じだが、年に数回オークションが開かれ、多くの物が
売買されている。そう言う絡みで、もう少し知らねばと手に取った
一冊であった。

著者の故松田権六氏は明治生まれ。丁度国策としての日本の
工芸品の輸出の頃から、アール・デコへの流れ、そして戦後の
発展と昭和の終わりまでを漆を通して見てきた人である。うるし
の神様とも呼ばれ、出身地の金沢の漆産業を盛り上げる事に
尽力を尽くしてきた。

この本の初版は1964年。驚くべきことに40年以上前に書かれた
の本である。それなのに中身は全く古さを感じさせない。特に
工芸における良い本はいつもそうであるが、もう完成された本が
すでに出版され、残念ながら絶版になるという、良くあるパターン
なのである。その中で、この本は版を重ね、いまだに読み続け
られているという事は、そのジャンルにおいて最高の参考書の
1つであることを意味する。すなわち、それは故松田氏の文中の
言が、真理を突いているからに他ならない。氏は、古典を良く
研究せよという。

今では、ありとあらゆる町に美術館、博物館が乱立し、書籍でも
手に入る、さらにインターネットの普及は、世界の名品までも
自由に見て回れる時代である。参考品には不足しないはず
である。しかし、悲しいかな、恵まれすぎた者は、有難味を失い、
粗雑な見方しかできなくなってしまったのではないかと問う。
自分自身、家具修復士として、今まで触った家具を全て
覚えているかと、問われると間違いなく回答に窮するに違いない。

「日本人は裸眼で物を見る前に、レンズを通して眺める。」
日本人の海外での写真撮るの好きなのを皮肉った言葉である
が、写真を撮ったことで安堵している自分になってはいけないと、
時々、この本を読んで自分自身を戒めなければいけないと
思った。

「うるしの話」
松田権六著
1964(初版) 岩波文庫
ISBN 4-00-335671-3

2009/05/17

「箱根細工物語」

「箱根細工物語」 岩崎宗純著
漂泊と定住の木工芸
ISBN 4-87645-082-X

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以前ブログで書いた、箱根寄木細工屋さんで薦められた一冊。
(記事は以下で参照→箱根寄木細工

神奈川新聞社のかなしん出版から出ている。箱根叢書⑨。
どうも、すでに絶版のようでアマゾンのマーケットプレイスで購入。

著者の岩崎氏は住職さんだそうです。箱根の寄木細工に限らず、
挽物や漆器すべての箱根細工がどのように時代と共に発展して
いったが書かれています。

元来の僕の興味は寄木細工で、古くは正倉院に残る宝物の
木画箱と言うものの中に紫檀、黒檀、ツゲ、象牙や青角を使い
幾何学文様や絵画文様を作り張り付けたものがあり、それが
寄木細工の原点と考えられる。そのもの自体は恐らく、
シルクロードを渡ってきたイスラム世界からの物だと思うの
だが、、、。何故、江戸の末期に箱根で突然、寄木細工が
始まったかは何か理由があると思うのですが、、、。

そもそも、箱根という湯治地の土産物的なものとして発展した
寄木細工はあまり国内に残っていないようで、むしろこちらの
ヨーロッパでよく見かける。特に乱寄木と寄木文様の組み合わ
せた装飾は色々な物に使われたようで、小さな箱から、大きな
輸出用のキャビネットまで手掛けていたよう。今後の研究に乞う
ご期待というところか。

知らなかったのは、ロシアの民芸品だと思っていたマトリョーシカ。
あの木の人形をパカッと2つに割ると、また人形が出て来て、また
割るとまた人形と言う具合になっている奴。あれは実は箱根の
職人が、19世紀の終り頃に最初に考案して作りだしたと言う事
(形は卵ですが)。それがどういう経緯でロシアに行ったかは
はっきりしませんがそれが今日、ロシアの伝統挽物玩具に
なっていると言うのはなんか不思議な話です。

2009/03/05

[VICTORIAN FURNITURE」

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「VICTORIAN FURNITURE」

ヴィクトリアン・ファニチャーと言う本。すでに何冊も同じタイトル
の本がある在り来たりなタイトル。しかし、副題に「Technology &
Deisgn」と付いている。中を見れば、写真はほとんど無し。家具史
の本ではこれはかなり珍しい部類に入る。

大概、家具史の本と言うものは、家具のデザイン主導で、デザイン
の移り変わりを中心に書かれている。それ故に写真を見せること
によって、デザインの移り変わりを提示する。そもそも、流行と
言うものは19世紀半ばまでは、製作者側によって作られてきた物
にすぎない。消費者(大衆)が流行に本格的に参加するのは
20世紀に入ってからである。

1851年以降の世界博覧会を機に(フランスではこれより少し
早かったが)、物を展示して販売するというスタイルが確立され
てきた。日本でも、勧工場と呼ばれるところで展示即売が
行われた。それ以前、家具を買いたい場合は、わざわざ家具
職人(デザイナー、作家)の所に行き発注をしなければ家具が
手に入らなかった。

ヴィクトリアン時代は産業革命の時代。様々な、蒸気によって動く
機械が発明され、実用化された。バンド・ソー(Band Saw)やベニア・
カッター(Veneer Cutter)、彫刻を彫る機械など。しかし、機械化
により多くの人々の仕事が失われたかと言うと、「No」で、むしろ
19世紀末に向かって、家具産業に従事する人は増えている
のである。

人は、きちっとしたメリットや利益が約束されない限り、今の
やり方を変えて、わざわざ高いものを買うことしない。著者の
エドワーズ氏が注目したのがまさにそれで、産業革命による
機械化がいかに家具業界に影響を及ぼしたのかと言う事である。

ヴィクトリアの時代は、家具史上折衷の時代としてとらえられて
いる。過去のスタイルがリヴァイヴァルとしてヴィクトリア時代を
彩るからである。しかし、このリヴァイヴァルは、消費者主導の
物? もしくは製作者側の機械化によって、より簡単に、もしくは
より廉価に出来るようになったからなのか?

色々な意味で、大きな変化のあったこの時代に、家具産業が
いかに対応したかが良くわかる本です。一見、矛盾している
かにも見える事柄が、同時に存在した時代。大衆の購買力の
増加。手作業から機械への緩やかな移行。新しい素材。
個人的には目から鱗だった、と言うエピソードも多くありました。
確かに専門性が高い本ではありますが、普通の人でも意外に
面白いはずです。

VICTORIAN FURNITURE
-Technology & Design-
Clive D. Edwards
Manchester University Press
1993
ISBN 0 7190 3783 2

2008/04/08

「アンティーク入門」

「アンティーク入門」

昨年末とある某雑誌が組んだ特集のタイトルである。

Magazine

サブタイトルは「知らないと恥ずかしい基礎から、話題の
「モダン・アンティーク」まで。」

雑誌にしては珍しく、イギリスのプロフェッショナル2人を迎え
ている。一人は、恐らく、インテリアに少しは興味ある人なら
誰でも知っているであろうテレンス・コンラン卿。ご存知の通り
東京にも店を構えるコンラン・ショップのボスであり、あのハビタ
(Habitat)の創業者である。もう一人はエリック・ノウルズ。確か
著書が、あの鑑定団の岩崎氏を監修で訳されていたはず。
イギリスでは「アンティーク・ロードショウ」と言う番組の中で鑑定
をする専門家の一人として知られている。

雑誌自体がインテリア系だけ合って、家具がメインなのだが、
インタビュアーが知識不足なのかどうも頓珍漢な答えになって
いる所が多い。雑誌の場合、一回限りの印刷なのだろから、
誤植や間違いにはほとんど頓着していないに違いない。

それにしてもコンラン卿の選ぶ物さすがに面白い物が多い。
今の流行は、モダンとオールドを上手く合わせる事と言われ
ているが、それが上手い。新しい物だけなく、古い物も良く
知っている。ネーム・ヴァリュー先行でデザインを見る癖が
付いている現代人は、いらない情報(時には必要な情報でさえ)
を排除し、感性で物を見ると言う経験を積まないと、
選べないものだと思う。

今の、ダウンロード世代にはわからない事であろうが、昔は
レコード(古い!!)を買うときジャケ買いと言う買い方があった。
アーティスト名も曲も知らず、この写真(絵)をアルバムの
ジャケットに使う感性を持つ人だから、絶対良いに違いない
と信じて買う、しいて言えば無謀なギャンブル買いだが、少ない
予算の中、選びに選んで買う、そして、これが当たるとかなり
嬉しい、そんな経験。

そういう意味では、ビニール袋に入っていたので中身を知らず、
表紙だけ見て、この雑誌買った私の感性は、、、、なのか??

2007/12/09

「イギリスの家具」

「イギリスの家具」
John bly著、和家具、昭和史の研究の第一人者小泉和子さんの訳。
西村書店。

1993年の出版。もう十数年前の本ですから第2刷、第3刷と出てるの
でしょうか? 私の持っているのが、第1刷で、いつ購入したのかは
はっきり覚えてませんが、まだ日本にいた頃なので10年以上前で
あることは確かです。

最近、ちょっと調べ物の関係で、ふと手に取り再読してみました。

昔読んだ時、あまり気にならなかった(知らなかったが故に)のです
が、かなりの誤訳、表記間違いが目に付きました。西洋家具の知識が
あり訳した場合と違って、英語の専門用語を、いまどき日本人でも
そんなこと言わないなだろうなと思ってしまう様な日本語への
置き換えにかなり苦労なさっている反面、あまりにも意味不明な
表記が多い!! そういった細かいディテールの写真や、図までは
載ってませんから文章から、その様子をヴィジュアル化出来ないと、
全くわからないということになってしまいかねません。

英語の表記を、完全に日本語化することは基本的に不可能です。
ということはその裏の知識がないと、何のことを言っているのか
わからないという事になります。それは、木の事であったり、様式、
構造、当時の生活スタイルや歴史にまで及びます。それこそ、あの
「家出のドリッピー」のイングリッシュ・アドべンチャーの超訳と
言うのが必要になると思います。

追伸:西村書店の方に再校正、改訂版の出版を勧めるメールでも
出してみようかなと思ったりもします。

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2007/10/10

「ロンドン骨董街の人びと」

「ロンドン骨董街の人々」 
六嶋由岐子著

1997年に新潮社から発行された本。

ちょうど渡英前の時で、イギリスのアンティーク事情は
どうなのかな、という興味本意で本屋で手に取って見た本。

その時は、それこそ"Antique Roadshow"も、
"Grosvenor House Antique Fair"も、"Spink"さえ知らなかった。

それが、アンティーク・ロードショウは週末の楽しみになり、
グロブナー・ハウス・アンティーク・フェアーは、唯一毎年行く
フェアーになり、スピンクは、大手オークション・ハウスの
クリスティーズに統合されてしまった。

こちらで働いてみて、わかることも少なくない。
ヨーロッパ人の感覚、考え方。単純に良い、悪いではなく
良い意味でも、悪い意味でも日本とは違うという事。
頭ではなく、肌で感じるもの。

家具に限らず、長い時間この世に存在してきた物には
オーラというか、ドロドロした物が必ずまとわり付く。
それを古艶と呼ぶか、何と呼ぶかは別として、そうやって文化
という物は積み重ねられていく。

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