Charles X Mahogany Chaise
シャルル10世時代のマホガニー製の小椅子
世界の家具史を見ると、木製の家具に関しては、ヨーロッパではある意味
18世紀末に最高峰に立っていると言える。構造、技術、デザイン、どれを
とっても、素晴らしいものである。ただし、手作業で製作する範囲内では
という条件が付くが。
イギリスでも、18世紀は家具の黄金時代と呼ばれ、著名なデザイナーを多
く輩出している。転じて19世紀は、混沌の時代。1830年代から1800年代
の終わりまで統治したヴィクトリア女王の時代。一般にこの時代は折衷時代
と呼ばれ、新しいもの、古いものが、ごっちゃになった時代として認識され
てきた。そのせいか、ある時期までジョージアンと呼ばれるそれ以前の時代
に比べ、価値が低いとみなされ、かなり安い価格で市場で取引されたいた記
憶がある。
それは、海峡向こうのフランスでも同じようで、18世紀末のフランス革命後
派手なナポレオン統治の時代があった後は、イギリスの様に様式がごちゃ混
ぜになっていて、アールヌーボー時代が始まる20世紀初頭までの間は
「19世紀スタイル」と言われかなり大雑把な分け方がされていたりする。
この小椅子もそんな時代の一品。
前脚だけを見ると、それ以前のエンパイア様式に流れを汲んでいる。ただ
し、エンパイア様式の時のような重々しさはない。軽やかな、ある意味女
性的なデザインともいえる。
ある意味、ロココの時代のリバイバルともいえる。イギリスとは違って、
18世紀には家具の主材にはなりそこなったマホガニーが使われている。
今まで、塗装するか、マルケトリーで覆うことにしか美的価値を見出さ
なかったフランス人が、やっと落ち着いて木の杢目、色を楽しむように
なった。もしくは、その前の時代に対するのアンチテーゼか。
椅子自体は、本当に小椅子と呼ぶに相応しい椅子である。この系統が、その後
アールヌーボーへと引き継がれていく。
普通は角柱をベースに、椅子の構造を組んでいくが、この椅子は至る所が
曲面に覆われている。特に座った時に、座った人が触るであろう上面は、
ほぼ全て曲面に覆われていて、触る手に優しい。
座枠の前面が曲線。前脚の前側、座枠の横枠の上側が。こういった細かな
所が、全体として柔らかな印象を醸し出している。
前側右の、コーナーブロックがオリジナル。それ以外は後から付けられた
もの。それでも、オリジナルのコーナーブロックの内側は、柔らかな曲線
が使われている。
機械で作ると、コスト削減の為か、こういう細かい所が雑になってしまう。
質の高い椅子と言いうのは、コストとのバランスがつくづく難しいなと思う。