「古い物から新しい物を生み出す」
昨年末、「Creating New from Old」と言うタイトルで、高台寺蒔絵
の研究に関するちょっとした講演がロンドンの
ジャパン・ファウンデーションであった。
講演はNPOの高台寺蒔絵技術等保存伝承会「高台寺蒔絵の研究
と復元的製作」プロジェクト代表の下出祐太郎氏。
もともと高台寺蒔絵は、豊臣秀頼、正室の北政所の伏見城の為に
作られ、その後高台寺に移設されたとも云われ、製作者も不明。
大胆な平蒔絵を建築装飾に使ったものとして桃山時代の最高作と
される。
日本の伝統工芸の都、京都でも年々、漆芸に従事する人が減り
続けていると言う。数年前に読んだ、日本で膠を作る人がいなく
なると日本画も描けなくなってしまうと言う話。経済的バランス。
得てして手作業は手間がかかる故に、その過程をきちっと認め
てもらわないと、職人はやっていけない。美的意識の低さ。それは
一般人だけでなく、その業界の中でも安穏と居座る伝統と言う
古い体質にも要因があるに違いない。
16世紀に日本にたどり着いたヨーロッパ人が感嘆したのは何なの
であろう? 漆? 漆芸? 蒔絵? 高台寺蒔絵?
いまだに、欧米では物凄い量の"Japanese Arts"がそこここで
取引されている。つい先日も、ロンドンのボナムズ(Bonhams)で
根付の最高落札額が更新されたばかり。彼らは日本人の作る
その物の中の小世界に感嘆する。緻密さ、精巧さ、そして大胆さ。
それ故に日本美術のコレクターは世界の至る所に存在する。
その彼らの祖先は日本の漆芸に何を見たのか。その頃の
時代背景を追っていくと、彼らを魅了したのは、あの光沢、
そして黒と言う色だったように思えてならない。今でこそ、簡単に
鏡面仕上げなんて事が出来るが、その頃の家具と言えば、
大概はワックス仕上げ。室内に置く調度品であの光沢を持つ物
は存在しない。加えて、ルネッサンスの輝く時代のあとは
グロテスクと呼ばれるモノトーンの時代。黒と白のコントラストが
斬新だった時代。
ヨーロッパ人と漆芸の最初の出会いの後に多く輸出されたこの
タイプの両観音開きの箪笥。ヨーロッパでは彫刻の入った台の
上に置かれることが多いが、その昔その台は、箪笥の黒と対比
させるように銀箔貼りが施されていたと言う。酸化で、すぐ色が
黒くなってしまうのでその後に金箔貼りが主流になってしまうが。
このプロジェクトの最終目的は、高台寺蒔絵技術による
復元的制作屏風を数十点制作し、ヨーロッパを巡回する事だと
言う。
19世紀、インドを手に入れたイギリスで、カレーがポピュラーに
なった。植民地主義時代のイギリス人がどうしたかと言うと、
カレーの作り方を学ぶのではなく、カレーの作れるインド人の
シェフを連れてくる(分捕ってくる)。そう言うヨーロッパ人でも
分捕ってこれなかったものがいくつかある。
1つはカオリンが主原料の磁器。そして漆である。両者共、
ヨーロッパ独自の方法で模倣が作られることになる。
はたして、そういう意味で復元的製作屏風が、ヨーロッパで
どのような受け入れられ方をするか。ただ綺麗だねで、終わって
しまいそうである。
漆芸に従事する人を増やすには、ポテンシャルのあるマーケット
を徹底的に研究することによって、新たな需要が産まれるに
違いない。それこそが、古い物から新しい物を生み出す事なので
はないだろうかと思うのだが。