朱漆地花鳥螺鈿鳥型脚付円卓
朱漆地花鳥螺鈿鳥型足付円卓
Red And Gold Lacquered Table On A Triangular Griffon Stand
昨年ニューヨークで行われたオークションで出品されたテーブル。
江戸後期から明治初期にかけての輸出漆器について興味がる人ならば誰でも
知っているであろうテーブルである。黒地に青貝細工が一般的な中で、この
朱色はひときわ目を引く。
残念なことに、アメリカで行われたオークションである為、現地まで現物が
見に行けなかった。こうやって、次のオーナーに移りアンティーク市場から
またしばらく姿を消していく。
私が初めて、このテーブルの写真を見たのは2001年発行の「日本の美術」シ
リーズの第427号 海を渡った日本漆器II(18世紀・19世紀)の中である。
1920年代までイギリス、スタフォードシャーの大客間にあったとされる。
中央部の黒塗りは、あとから加飾されたもの。花瓶か何かを中央に置いて
置いたために湿気による損傷でもあったのだろう。
さらに興味深いのは、この変わった脚の形状が、安政三年(1856年)に編纂
された「青貝蒔絵雛形控」の中に出て来る雛形にかなり酷似しているという
事である。
その中で、このテーブルが持渡木地と呼ばれる、日本産ではない他所から
持って来られたものであると記述されている。輸出漆器用の日本産の木地
はほぼ間違いなくヒノキ材で作られているので、この木地が何材かがわかれば
この木地がどこで作られたかが特定出来そうである。
可能性があるのはインド製か、清の広東製だが、テーブルのデザインがフラン
ス源流から来ているのを考えると恐らくは広東製でではないかと思われる。
日本製の輸出漆器の名著である「Japanese Export Lacquer」の中にも
このテーブル、勿論掲載されているのだが、そこには一番上のタイトルにある
様に三角形のグルフォンの台座のテーブルとされている。
もともとのデザインの原型は、19世紀初頭ナポレオン下のアンピール様式
時代のもの。アンピール様式は、フランスの新しい時代の様式故に、金彩など
の派手な感じでナポレオンのエジプト遠征に触発されたスフィンクス像や、グ
リフィン、イルカや白鳥、ライオンの脚などが特徴的な意匠としてよく見られる。
ここで、疑問が湧くのがこの台座の鳥??
これは果たしてグリフォンなのだろうかということ。
グリフォンは鷲の上半身にライオンの下半身の伝説上の生物。テーブルの
彫刻、上は鷲に見えないこともないが下は人間の様である。
個人的には、これはグリフォンよりは白鳥からインスパイアされた物で
はないかと思う。
上は、同時期のマホガニー製のテーブル。
発注者の頭にあったのは、マホガニーに鍍金された白鳥の彫刻のついた
テーブルだったのではないだろうか。そうすると、このテーブルが朱色
なのもなんとなく納得がいく。他の同時期の輸出漆器と毛色が違いのも
これが特注品であるゆえだろう。